当診療科は、その名の通り手の外科ということで、主に肘から手指までが診療範囲となります。この範囲で起きた骨折、脱臼、打撲、外傷といったケガや、腱鞘炎、変形性関節症、神経障害、手指の変形、良性腫瘤のガングリオン、肘の痛み(テニス肘、野球肘 等)などの診療をしていきます。

手外科で扱う主な疾患

ばね指、ドケルバン腱鞘炎、手根管症候群、ガングリオン、へバーデン結節、肘内障、テニス肘、野球肘、マレット変形、狭窄性腱鞘炎、デュピュイトラン拘縮、母指CM関節症 など

狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病)

ドケルバン病とも呼ばれるもので、主に手首の親指側に痛みや腫れがみられ、親指の腱と腱鞘に炎症が起きています。発症しやすいタイプとしては、手指をよく使う方(PC作業、字を書く、手を酷使する仕事 等)、妊娠期や出産期・更年期の女性のほか、糖尿病や関節リウマチの患者様などにも起きやすいと言われています。

主な症状ですが、親指の腫れや痛み(親指を手首の内側に向けて動かすなどすると痛みが出やすい)以外にも親指が動かしにくい、しびれがみられるといったこともあります。

治療に関して、保存療法と手術療法があります。保存療法では、手(親指)を酷使している場合は装具を着けるなどして固定して安静にする、消炎鎮痛薬の内服あるいは外用薬の使用等あります。なかでも効果的とされているのが腱鞘内のステロイド注射です。ただ繰り返し注射をすれば腱を痛めるようになるので何度も打つようであれば手術をする必要があります。また保存療法が有効でないと判断されると手術療法(腱鞘切開術)となります。この場合、炎症部位の腱鞘を切開して、腱を開放することで痛みなどの症状が解消されるようになり、手術時間は30分程度です。

手根管症候群

主に両手のひらの親指から薬指の内側半分の範囲(主に正中神経に支配される領域)にかけて痛みやしびれがみられている状態を手根管症候群と言います。このほかにも指を使う動作がしにくくなる、手関節を曲げたり伸ばしたりすることで病状を悪化させることもあります。なお放置を続けるとしびれが一日中みられる、握力が低下する、親指の付け根にあるとされる筋肉が萎縮するなどの症状が現れます。上記のような症状は夜間や起床の際にかけて強くなるとされ、正中神経が圧迫することで発症するようになります。

発症しやすいタイプや原因に関しては、手首を酷使する仕事をしている、妊娠期あるいは更年期の女性、手根管内に腫瘤が発生するといったことが挙げられます。女性の患者数は男性の4倍以上とも言われており、これらによって、手根管内を通る正中神経が何かしらの原因によって圧迫を受けることで発症するようになります。

治療をする場合、保存療法と手術療法があります。保存療法としては、装具などを使って手首を固定し、手根管の炎症が周囲に及ぶのを抑える、消炎鎮痛薬やビタミンB12を用いるなどします。また痛みを感じますが、正中神経に直接注射して炎症を抑える(ステロイド注射薬)ということもあります。

上記の治療法では改善が困難と判断されると手術となります。この場合、正中神経を覆っている横手根管靭帯を切開することで、圧迫状態は開放されるので、それによる症状は解消されるようになります(手根管開放術)。手術時間は30分~1時間程度です。

肘部管症候群

肘の内側にある尺骨神経は肘部管を通っていますが、その際に圧迫もしくは牽引されることで慢性的に薬指の一部や小指にしびれがみられます。これがさらに進行すると小指や薬指に屈曲拘縮からの鷲手、一部の手の筋肉がやせ細るなどします。圧迫の原因については、加齢や骨折などによる肘の変形、ガングリオンなどの腫瘤、スポーツによる肘の酷使、靱帯の肥厚などが挙げられます。

治療に関してですが、しびれの症状が軽度であれば保存療法です。安静に努める、痛み止め(NSAIDs)やビタミンB12などの薬物療法を行っていきます。それでも改善が困難、麻痺が進行しているという場合は、手術療法として除圧術や神経前方移行術(尺骨神経を前方に移行させることで、圧迫状態による緊張を和らげていく)などが行われます。

へバーデン結節

へバーデン結節は、手指(親指は症状が出ないこともある)の第1関節の甲側が赤く腫れて変形がみられる(水ぶくれができることもある)ほか、動きも悪くなります。このほか痛みが出るので手を強く握れないということもあります。なお発症の原因は特定できておりません。

またこの病気の特徴として40歳以上の女性が発症しやすいことから、関節リウマチと間違われることも少なくありませんが、この場合は手指の第2関節で症状がみられます。

治療が必要な場合ですが、まず保存療法となります。患部をサポーターやテーピングで固定していくほか、痛みが強く出ている場合は、痛み止めの内服薬や湿布、あるいは関節注射を用います。上記の治療のみでは、痛みが治まらない、関節の変形がさらに進行しているとなれば、手術療法が選択されます。この場合、関節固定術や関節形成術が行われます。

母指CM関節症

手の親指の付け根付近にある関節を母指CM関節と言います。同関節は親指の動きをコントロールする役割があるとされ、動かしやすいという特徴もあります。この関節を酷使する、あるいは加齢といったことで軟骨がすり減るなどして関節が変形(変形性関節症)し、蓋を開ける、物をつかむ、親指の付け根を抑えるといったことで痛みがみられるようになるのが母指CM関節症です。閉経後の女性に発症しやすく、変形の状態については外見からも確認できるようになります。なお両手で起きることもあれば、片手のみということもあります。

治療の基本は保存療法となります。具体的には、患部を装具で固定する、湿布や外用薬を使用するなどしていきます。それでも炎症や痛みが治まらないという場合は、CM関節に向けて注射する関節内注射を行います。このほか、温熱療法(パラフィン浴)も有効と言われています。また保存治療のみでは改善が困難と判断されると手術療法(関節固定術、関節形成術)が選択されます。

ガングリオン

主に手関節や手指の付け根付近から発生する腫瘤のことをガングリオンと言います。発症の原因は特定していませんが、関節包や腱鞘の一部が脆弱化することで発生します。女性の患者様が多いのも特徴です。

腫瘤の大きさについては、米粒大のものからピンポン玉まで様々ですが、自然につぶれる、あるいは消失するということもあるので、放置しても問題ありません。しかし、ガングリオンによって神経が圧迫を受けて痛みがみられる、指の曲げ伸ばしが上手くできないという場合は、切除する必要があります。

切除の方法としては、ガングリオンに向けて注射器を穿刺し、内容物を吸引していく穿刺吸引があります。ただこの場合は再発しやすいということもあります。完治させるには、皮膚を切開し、袋ごとガングリオンを摘出していく手術療法が必要となります。

デュピュイトラン拘縮

手のひらにある手掌腱膜が肥厚化し(しこりやこぶ状のようなものができる)、やがて拘縮することで指を伸ばすことが困難になる病気がデュピュイトラン拘縮です。痛みなどの自覚症状はありませんが、手のひらの小指や薬指に沿うような形で腫瘤が発生します。その後、数年~数十年という単位で主に薬指や小指付近の皮膚がひきつれることで、これらの指が曲げにくくなっていきます。ケースとしては、それほど多くないものの、他の指や足の裏で発症することもあります。原因に関しては現時点で特定されていませんが、高齢者や糖尿病患者様によく見受けられます。

治療は、日常生活に支障をきたしている場合に行われ、外科的治療(手術療法)による腱膜切除手術あるいは腱膜切開手術によって、皮膚のつっぱりを解消していきます。手術後は装具による患部固定(就寝時)やリハビリテーション(指の屈曲運動 等)を続けていきます。